甲状腺疾患とは

甲状腺疾患イメージ画像

甲状腺は、ホルモンを分泌する内分泌器官のひとつでもあります。
首、いわゆる頸部の前側、主に喉ぼとけの下にある臓器(男女で甲状腺の位置は多少異なります)で、蝶が羽を広げた形をしており、縦が約4~5㎝、横が6~8㎝ほどの大きさで、20g程度の重さになります。

人体の中では小さい臓器ですが、内分泌器官の中では最大の臓器であり、甲状腺ホルモンの生成と貯蔵、分泌をしています。
同ホルモンは、全身の細胞を活性化させる新陳代謝を調節したり、お子様の成長や発育に欠かせなかったりと、身体にとって重要な役割を担っています。

このような働きをする甲状腺が何らかの病気によって、過剰に分泌されたり、必要とされる量が分泌されなかったりすると身体に様々な症状が起き、日常生活にも支障をきたすようになります。

甲状腺疾患には、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症(バセドウ病 等)、甲状腺ホルモンの分泌が不足してしまう甲状腺機能低下症(橋本病 等)がよく知られていますが、甲状腺に腫瘍が発生することもあります。
なお甲状腺腫瘍の大半は良性ですが、悪性になるケースも少ないですが見受けられます。

また上記以外にも、甲状腺に腫れはあるものの、甲状腺機能には問題が生じていない単純性甲状腺腫などもあります。

これらの病気というのは、それぞれ治療法が異なるので、診断をしっかりつけることが重要です。

甲状腺疾患でよくみられる症状

甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンが過剰に分泌されている状態)

  • 全身倦怠感
  • 暑がっている
  • 異常な発汗がみられる
  • 体重が減少している
  • イライラしてしまう
  • 頻脈で、動悸や息切れがみられる
  • 食欲が急激に増している(食欲亢進)
  • 軟便や下痢が起きやすい など

甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が不足している状態)

  • 寒がっている
  • 声がかれている(嗄声)
  • 体重が増加している
  • 徐脈がみられる
  • 皮膚がカサカサしている(ドライスキン)
  • 食欲低下
  • 眠くなりやすい
  • 物忘れが多い
  • 全身にむくみが現れている
  • 便秘気味である など

上記とも共通してみられる症状

  • 脱毛
  • 無月経(女性の場合)
  • 疲れやすい(易疲労感) など

その他(甲状腺腫瘍や単純性甲状腺腫等でみられる症状)

  • 首が腫れている
  • 首にしこりを感じる
  • 物が飲み込みにくい など

甲状腺疾患の発症の原因

甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症では、自己免疫反応がきっかけとなって、ホルモンバランスが乱れて起きる(分泌過剰、分泌不足 等)ということがあります。
ちなみに自己免疫反応がなぜ起きるかはわかっていません。
なお甲状腺がんについては、現時点で原因は特定されておりませんが、放射線被ばく、遺伝的要因などが関係しているのではないかといわれています。

検査について

甲状腺疾患発症の有無を調べるにあたってよく行われるのは血液検査です。
採血から甲状腺ホルモン(FT3、FT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度を測定します。
さらに自己抗体検査によって、自己免疫反応による甲状腺疾患であることを調べることもあります。
また甲状腺の状態、大きさなど形状異常を確かめるための画像検査として、超音波検査(頸動脈エコー)が行われるほか、甲状腺がんが疑われる場合はCTやMRIなどの検査で、がんの位置などを調べます。
また頸部にしこり(結節)がある場合は、患部に向けて針を刺し、内容物を一部採取して顕微鏡を調べる穿刺吸引細胞診によって、腫瘍が良性か悪性かを確認することもあります。

主な甲状腺疾患

甲状腺機能亢進症

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気を総称して甲状腺機能亢進症といいます。
その中でも、大半を占めるとされているのがバセドウ病の患者様です。

バセドウ病

バセドウ病とは、比較的若い女性(20~40代)に発症することが多く(男女比では1:4程度)、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される原因としては、自己免疫反応が挙げられます。

よくみられる症状としては、甲状腺が広範囲で腫れる、眼球が飛び出ているように見える(眼球突出)、頻脈といったものです。
また上記以外にも、全身の倦怠感、動悸・息切れ、体重の減少、発汗過多、食欲亢進、軟便・下痢、手指振戦(自らの意思に関係なく、手指が小刻みに震えている 等)等の症状がみられるほか、女性であれば希少月経や無月経などが現れることもあります。

患者様の訴えやみられている症状からバセドウ病が疑われるのであれば、血液検査や頸動脈エコーを行うなどして診断をつけていきます。

治療について

主に抗甲状腺薬と呼ばれる、甲状腺ホルモンの分泌を抑制させる働きをする薬物療法が用いられます。
使用する薬剤としては、チアマゾール、プロピルチオウラシルなどがあります。

なお上記の薬物療法では、なかなか寛解させることができない、抗甲状腺薬の使用が難しいといった場合は、甲状腺の摘出(全摘術)あるいは、一部摘出(亜全摘術)による手術療法やアイソトープ(放射性ヨウ素)治療が選択されます。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されない、もしくは分泌されていても同ホルモンの働きが十分でないことで、何らかの症状がみられている病気のことを総称して甲状腺機能低下症といいます。
その種類はいくつかありますが、大半は橋本病(慢性甲状腺炎)の患者様です。

橋本病(慢性甲状腺炎)

本病とは、甲状腺での炎症が慢性的に続いている状態で、それによって甲状腺の細胞は破壊され、次第に甲状腺の機能が低下していくようになります。
発症して間もなくは自覚症状が出にくく、症状がみられるようになる頃は大分進行した状態になっています。
また中年女性の患者様が多いのも特徴で、女性患者様の割合は男性患者様と比べると20倍ほど多いともいわれています。

発症の原因は、主に自己免疫反応によるものですが、発症間もない頃であれば、甲状腺は正常に分泌されています。
ただ炎症が持続していくと、甲状腺自体が硬く腫れるなどして、徐々にホルモンの生成・分泌が難しくなり、甲状腺ホルモンが体内で不足し、様々な症状がみられるようになります。
具体的には、首が腫れる(甲状腺腫)のをはじめ、寒がっている、食欲はないものの体重増加がみられることがあります。
同ホルモンの分泌不足は自律神経も働きにくく、腸の蠕動運動も低下するので便秘が起きやすいこともあります。
このほかにも、徐脈(脈がゆっくりになる)、新陳代謝の低下による肌の乾燥(ドライスキン)、体中のむくみ、声がかれて聞こえる(嗄声)、意欲の低下、もの忘れ、眠たくなる、女性であれば月経異常(過多月経、稀発月経 等)などの症状を訴えることもあります。

上記の症状がみられるなどして患者様に橋本病が疑われる場合は、触診で首の腫れを確かめたり、血液検査で甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの測定、自己抗体検査も行ったりします。
さらに必要であれば、頸動脈エコーで甲状腺内部の状態を確認することもあります。

治療について

橋本病と診断されても、甲状腺機能が正常な状態(甲状腺腫のみ)であれば、これといった治療をする必要はありません。
ただ、将来的に甲状腺機能低下による症状が起きる可能性がある場合は、定期的に経過観察をしていくようにします。

すでに甲状腺機能低下による症状がある患者様につきましては、体内で不足している甲状腺ホルモンを投与していく(甲状腺ホルモン)補充療法を行います。

甲状腺腫瘍

甲状腺に発生したとされる腫瘍を総称して甲状腺腫瘍といいます。
大きく良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。

良性腫瘍について

良性腫瘍では、甲状腺が腫れたり、甲状腺機能亢進症の症状が現れたりします。
特徴としては、形状(円形、楕円形)が整っており、境界がはっきりした腫瘍がみられます。
種類はいくつかありますが、主な良性腫瘍は次の通りです。

単純性甲状腺腫

単純性甲状腺腫とは、甲状腺が大きく腫れている状態ではあるものの、それ以外の異常がみられることはなく、しこり状のものが触れるということもありません。
ちなみに可能性としては低いですが、甲状腺の腫大が巨大になると、食道や気管が圧迫されてしまうケースがあります。

発症の原因に関してですが、現時点では不明とされており、診断をつけるにあたっては、別の甲状腺の病気と区別するために血液検査(甲状腺ホルモンの測定 等)、超音波検査(頸動脈エコー:悪性腫瘍の有無、血流の流れの確認 等)などを行っていきます。

なお単純性甲状腺腫と診断されたとしても治療を必要とはしませんが、甲状腺機能に異常がみられる可能性もあるので、定期的(年1回程度)に経過観察をしていく必要はあります。

腺腫様甲状腺腫

腺腫様甲状腺腫とは、甲状腺に複数以上のしこりがみられている状態で、細胞が増殖(過形成)することでしこり(結節)がたくさん作られるのが腺腫様甲状腺腫です。
なお、このしこりは腫瘍ではなく、ポリープの一種となります。
数多くできることで甲状腺全体が腫れているように見え、しこりは腺腫よりも大きくなりやすいという特徴もあります。
発症の原因については、現時点では不明ですが、遺伝的要因もあるのではないかともいわれています。

自覚症状は出にくく、このようなしこりの多くは良性ですが、可能性として甲状腺がんと合併することもあるので注意は必要です。

診断をつける際は、喉元付近の触診、頸動脈エコー、血液検査(甲状腺ホルモン等の測定 等)、穿刺吸引細胞診などを行っていきます。

検査の結果、良性であれば1年に1~2回程度の割合で頸動脈エコーの検査を行いながらの経過観察となります。

なお、しこりによる圧迫症状がある、がん細胞が混在している可能性があるということであれば、これらを摘出する手術療法が検討されます。

プランマー病

プランマー病とは、この病気は、甲状腺の一部に発生する結節のことで良性腫瘍のひとつに数えられています。
そもそも甲状腺ホルモンの分泌量は、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンによってコントロールされています。
しかし、この新たに発生したしこり(結節)というのは、甲状腺刺激ホルモンの指示を受け入れることはなく、さらに大きくなっていくことで甲状腺ホルモンを過剰に生産するようになります。

それによって、バセドウ病などと同様の甲状腺機能亢進症の症状が現れるようになります。
具体的には、動悸・息切れ、手の震え、発汗過多、不整脈などです。

診断をつけるための検査として、血液検査(甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモンの測定)をはじめ、頸部超音波検査(頸動脈エコー)、頸部CTなどを行い、総合的に判断していきます。

治療に関してですが、薬物療法と手術療法があります。
薬物療法では、抗甲状腺薬によって甲状腺ホルモンの分泌を抑制していきますが、完治することはありません。
なお完治を目的とした治療としては、手術療法があります。
この場合、結節(しこり)の除去を行いますが、正常な部分は残していきます。
これによって、甲状腺刺激ホルモンが再び機能し始め、分泌量などが元に戻るようになります。
ちなみに手術後に甲状腺ホルモンが不足するようなことがあれば、同ホルモンを体内に投与していく補充療法が行われます。

悪性腫瘍について

悪性腫瘍とは、いわゆる甲状腺がんのことです。
ちなみに良性と悪性を含めた甲状腺腫瘍のうち、悪性腫瘍の割合は約2割程度といわれています。
甲状腺がんも他の甲状腺疾患と同様に女性の患者様が圧倒的に多く、同がんは大きく5種類に分類(乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫)され、大半は進行が遅いといったことが特徴として挙げられます。

検査について

甲状腺がんが疑われる際に行われる検査は、視診や触診をはじめ、頸部超音波検査(頸動脈エコー)による画像検査で、甲状腺の大きさやしこりの性状などを見るほか、リンパ節への転移の有無なども調べていきます。
その結果、甲状腺がんが疑われる場合は、穿刺吸引細胞診で一部細胞を採取し、顕微鏡で詳細を調べることで腫瘍が良性もしくは悪性であることが判明するようになります。
悪性腫瘍となれば、がんの進行程度や転移の状況を確認するための検査として、CT、MRI、PETなどが行われます。

主に5種類あるとされる、甲状腺がんのそれぞれの特徴は以下の通りです。

乳頭がん

乳頭がんとは、濾胞細胞に発生するがんで、甲状腺がんを発症する9割近くの患者様がこのタイプのがんになります。
自覚症状は出にくく、ある場合はしこりを感じる程度ですが、がんが大きくなると神経や気管などを圧迫することがあり、声がれや物が飲み込みにくいなどの症状がみられることもあります。
なお乳頭がんは、分化がんでもあるので、進行は遅く、悪性度は低いこともあり、予後は良好なことが多いです。
ただリンパ節に転移しやすいこともあるので注意が必要です。

治療に関してですが、手術療法が基本となります。
がんの広がりの程度によって、全てを摘出すること(全摘術)もあれば、がんのある部分のみを切除すること(葉切除)もあります。
なお転移がんがある場合は、放射性ヨード内用療法と呼ばれる放射線治療も行っていきます。

濾胞がん

濾胞がんとは、乳頭がんと同様に濾胞細胞に発生し、こちらも分化がんであり、予後は比較的良好です。
ただこのがんは、血液の流れに乗って、肺や骨、肝臓など離れている部位にがんが転移することもあります。
このタイプは、甲状腺がんの患者様の5%程度を占めるとされ(乳頭がんに次いで多い)、症状がある場合は首にしこりがみられるくらいです。

治療に関してですが、手術による甲状腺の摘出(全摘術もしくは葉切除)が基本となります。
また遠隔転移がみられる場合は、放射性ヨード内用療法(放射線治療)も行われます。

未分化がん

未分化がんとは、甲状腺がん患者様の約1~2%を占め、高齢者(60歳以上)によく発症がみられるタイプでもあります。
5つの甲状腺がんの中では最も予後不良であるとされ、結節(しこり)が急激に増大していくので他のがんと比較しても圧迫症状が強くなります。
上記以外には、発赤や疼痛などもみられます。

治療に関してですが、手術ができる状態であれば外科的治療となりますが、困難ということであれば、放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせた治療が行われることになります。

髄様がん

髄様がんとは、全甲状腺がん患者様の1~2%程度の方にみられるとされるタイプで、遺伝的要因によって引き起こされることもあります。
C細胞とも呼ばれる傍濾胞細胞(カルシトニンを作り出す細胞)で発生するがんになります。
転移に関しては、リンパ液や血液を通じて起きることがあります。
主な症状ですが、自覚症状は出にくく、しこりを感じる程度が多いです。
なお予後に関しては、比較的良いとされています。

治療をする場合ですが、基本は手術療法です。
遺伝性によるものであれば、甲状腺の全摘手術となりますが、遺伝性でなければ一部切除による葉切除が選択されることもあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫とは、そもそもリンパ節やリンパ腺に発生するものですが、橋本病に罹患している場合、甲状腺で発症することがあります。
主な症状ですが、比較的早いスピードで甲状腺の腫れが大きくなります。
リンパ液の流れに乗って、がんが転移することもあり、予後は比較的良好とされています。

この悪性リンパ腫の場合は、手術療法が行われることはなく、放射線治療と化学療法(抗がん剤治療)の組み合わせによる治療が有効とされています。